館長挨拶

頼田稔館長

この文章は2008年6月14日の戎座人形芝居館の開館記念行事のときに話した内容です。
 
 館長として一言皆様方にご挨拶を申し上げたいと存じます。
晴天に恵まれました本日六月十四日、関西では一番早い夏祭りであり、えべっさんが鳴尾の地から西宮神社においでになったことにちなんだ〈おこしや祭り〉という記念すべき日に、歴史と伝統に育まれた西宮神社の門前町である中央商店街の一郭に、戎座人形芝居館が生まれることになりました。

 ここに至るまでご尽力を賜りました兵庫県や西宮市の関係者の皆様方に厚くお礼申し上げるとともに、震災からの街の復興を「人形芝居のふるさと」づくりとして位置づけ、自らが人形劇団えびす座を結成されて人形芝居館を建設されてこられました中央商店街の皆様方のご努力に敬意を表するものでございます。あわせてこれまで戎座人形芝居館の運営に関しまして貴重なご助言やご協力を戴きました吉井良昭西宮神社宮司様を始めとして人形劇関係の皆様方にはこの場をお借りしまして厚くお礼申し上げます。

 私もこのたび戎座人形芝居館館長の大役を仰せつかりましたが、皆様方のご支援と支えを基にしてご期待に沿えますよう、精一杯努力していく所存であります。

 西宮神社北の産所町に「傀儡師(くぐつ)古跡」の石標と人形操りのブロンズ像があり、西宮神社の境内には「くぐつ」の始祖百太夫社があることはよく知られています。現在の上方の伝統芸能である人形浄瑠璃や文楽のルーツは,戎信仰を全国に広めた傀儡師(くぐつ)たちの人形あやつりに求めることができます。そしてその門前町である西宮中央商店街は、人形劇にゆかりのあるえべっさんのまちなのです。そのことにちなんで、全国を旅して人形操りを伝えた傀儡師たちの開拓者精神に学びながら活力のある街づくり、地域の人の顔が見えるまちおこしを推進していくことになりました。

 本日は、戎座人形芝居館の誕生を祝しまして、人間国宝・吉田文雀氏の「人形芝居の 源流」のお話、淡路人形芸舞組の皆さんから「えびす舞」を上演していただくことになっております。あわせて人形劇の図書館長・潟見英明氏が長年収集された資料によります「めでためでたのえびすさん」の特別企画展示がございます。そして西宮神社から貴重な阿波のえびす人形も出展していただいていますので皆様方是非ご覧下さい。

 このように私達は住んでいるまちに残されてきた素晴らしい文化遺産を学び直すことにより、郷土への誇りを持ちたいと思います。そしてそこに住んでいる人たちとのつながりの創造に目を向けたいと思います。こうした自前の「文化によるまちづくり」を求めて、この度の常設の人形芝居館の発足に至ったことは画期的なことであります。40人が膝を突き合わせて座れば満杯になるこぢんまりとした人形芝居小屋の願いは、地域の老若男女が安心して集い、楽しめる憩いの場所の創造です。そしてここでは自分たちで作り上げる文化の創造を求めていきます。そうすることにより地域のコミュニティの復活と希薄になった人と人のつながりを求めていくのです。山や海に遊びに行くのにゲーム機を持参していく子ども達や、携帯の文字を通してしか他者との対話が出来ない若者たちに、人形劇を通して手づくりの文化のおもしろさ、人と共同でおこなう活動の楽しさを伝えていきたいと願うものであります。

 西宮神社の元・権宮司である吉井貞俊氏は、ご著書「福の神えびすさんものがたり」の中で、歩きの民俗学を大成させた宮本常一さんが西宮文化協会二十周年記念号の「西宮回想」のエッセイのなかで自分の住んでいる関東の町と比較して、「西宮のようなうるおい」、「人々の心をつなぐふっくらとしたもの」と評していることを紹介されています。この「うるおいのあるまち」「ふっくらしたまち」づくりをもう一度私たちが住んでいる人の顔がみえる〈まちづくり〉として求めていきたいものであります。

 この西宮の地には、アマチュア人形劇人のなかで初めて国際人形劇連盟日本センター・通称日本ウニマの功労会員として表彰された故金田一男氏がおられました。金田氏は伝承人形芝居と現代人形劇の接点を求めて長年研究を続けられ人形劇の発展に寄与され、人形劇研究会らるか、人形劇サークルさんしょの実を主宰され、関西学院大学等の人形劇部の発足に尽力されています。この度有難いことに戎座人形芝居館の表札をご家族の入野満喜子様に歴史の重みを感じさせる暖かい書体でお書き戴き、玄関にかけることができました。

 無数に存在する目立たなくとも地道に情熱を持って人形劇に取り組んでこられた多くの人たちのおかげで、傀儡師の人形操りに始まる人形劇のふるさと西宮が今もある事を、私達は心しておかなければなりません。

 らるか4号のなかで久保田ひさこ氏は、「人形劇の本質は、命のない〈物〉に命をよみがえらせる芸術である」と指摘されています。こうした「人形がよみがえって生きる」ために、まず「人間がよみがえって生きる」と言う課題を今私達は求められているのではないかと思うのであります。先の宮本氏の「ふっくらとした」「うるおいのある」人やまちづくりという指摘を戎座人形芝居館での活動を通して私達は少しでも実現していきたいものであります。

 例えば1960年におきた西宮海岸を埋め立てようとした石油コンビナートの誘致計画にたいして地域の人たちが芦屋や尼崎の人達と力を合わせて住民の健康で安全なくらしを守ってきた貴重な教訓があります。そして西宮には自然の残る海岸線や、美味しいお酒を育てた豊かで美味しい宮水があります。このように私たちの身近に本当の豊かさとは何かを選択してきた人々の知恵が育てた西宮文教都市宣言があるのです。当館では人形劇に関わるネットワークづくりを通して各地の人形劇団体との交流や資料の収集、展示を行い、伝統文化の継承を図るとともに街の賑わい創出に寄与していきたいと思います。併せて持続可能な社会づくりに貢献していくために埋もれている地域の「宝」を掘り起こしていきたいと考えています。館の運営に関しては入場無料を原則として、人形劇の上演のときは趣旨に賛同していただける方々に基金をお願いするコレクト制でまかなっていきたいと考えております。自分たちで作り上げる文化活動づくりの趣旨に賛同していただける方々が増えることを通してはじめて地域の人の顔が見えるまちづくりをすることができるのではないかと考えていますので皆様方のご支援とお力添えをお願いしたいと思います。どうか宜しくお願いいたします。

2008年6月14日
                          戎座人形芝居館 館長 頼田 稔

テープカットの瞬間