ともも人物図 【レコーディング エンジニア 長島 直乗(なおのり)】聴く人が心地よい音(演奏)をつくります(177号)

ともも人物図 【レコーディング エンジニア 長島 直乗(なおのり)】聴く人が心地よい音(演奏)をつくります(177号)
ともも人物図

音楽CDは、演奏者とレコーディングエンジニアと呼ばれる音づくりの編集者によって作られていきます。あらゆるジャンルを手がけ、チーフエンジニアとして数多の作品を世に出し、プロのミュージシャンから指名がかかる長島さん、実は400年続くお寺のお坊さんでもあるのです。

■演奏者にとってレコーディングとは?

本来、演奏は「今・このとき」にあるもので、消えていくものです。それを残すというのはある意味「辛い」と言われる演奏者もいらっしゃいます。ライブとはそのときの精神状態や環境によって変化するものであって、それが良さでもあります。ライブそのものを残すのではなくて、曲を残すとなると、どういう演奏で表現すればいいのかと思案されます。

■エンジニアの意図は?

最近は、レコーディング技術も上がって、腕のいいエンジニアがたくさんいます。デジタル技術が急速に進化していますから様々な音が作れますし、「こういう表現でいきましょう」と、まさにエンジニアがリードする場合も多いのです。互いの信頼関係があってこそですね。

■長島さんはどんな思いで作られているの?

僕はプレイヤーが気持ちよく演奏できて、聞く人が心地よかった、もう一度聞きたいと心に残るものを作りたいと思っています。エンジニアが自己を主張してしまうと演奏者は自分の演奏が見えなくなってしまうことが多いのです。私は演奏者に寄り添うというか、5人のバンドの6番目の存在みたいな感じで、居るか居ないか分からない裏方でいようと思っています(笑)。

■長島さんはお坊さん?

400年続く岡本にある浄土真宗の圓光寺の3男です。兄弟4人それぞれ18歳で得度しています。寺が忙しいときは法要の手伝いもいたします。

■寺育ちと音作りとの関係は?

子どもの頃からお経を聴いて育っているので自然と口に出てきます。浄土真宗には仏教賛歌というものがあります。そして、念仏和讃と言うものもあります。 和讃では、同じお経を音階を徐々に上げていき、二重三重に合唱のように歌い上げて浄土を表すのです。気持ちの良いものですよ。それにお教には木の音が合いますね。自覚はないですが、心地よい場や歌や音というものを寺で身に着けていたのかもしれません。

■なぜエンジニアに?

弟が中学生でバンドを始めて、自宅で練習するのを聞いていたのです。あるとき文化祭用にデモテープを作りたいと言いはじめて、その言葉に私の裏方根性が刺激されたのです。楽器の演奏もしたことはないのですが、演奏された一音一音に触れて、全体を作っていく作業に惹かれていきました。好きなんです、今も長時間に渡っての編集にストレスを感じたことはありませんね。

レコーディング エンジニア 長島 直乗(なおのり)

レコーディング エンジニア 長島 直乗(なおのり)

圓光寺は現在建て替え中。今後400年生きる宮大工による木造の本堂が完成します。レコーディングにはオートマチック処理ができる技術が進み、画一化されていく可能性もあるなか、演奏者に寄り添った心地よい音作りを目指したいと長島さん。本堂に爽風が吹いているような印象の長島さんでした。(武地)

◻プロフィール
2002年 甲陽音楽学院終了後、三和レコーディングスタジオ入社。2007年~同スタジオでチーフエンジニア兼任。2010年~フリーエンジニアとして、オーケストラからロック、ポップス、ジャズ、邦楽まで世に出してきた作品は数多。特にジャズには定評がある。NPO法人日本ミキサー協会理事。

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