クマたちの棲む豊かな森を次世代に(182号)
クマが棲める奥山の保全・再生と、クマの捕殺をやめ、人間とのすみわけを提案しつづけている「一般社団法人 日本熊森協会」(1997年設立)。西宮市に本部を置き、実践自然保護団体として全国でその活動が注目されています。
「人間にえさ場を破壊され、人里に出てこざるを得なくなった山の動物たちを、私たちはいつまで害獣として、捕殺し続けるのでしょう。環境破壊にあえぐ野生動物たちの今の惨状は、子どもたちが将来直面する未来だと、わかってほしい」と、訴える会長の室谷悠子さん(弁護士)。
近年、クマが食料にするどんぐり類の巨木が大量に枯れる、深刻なナラ枯れが拡大しています。原因は酸性雨(雪)、地球温暖化などが考えられますが、いずれにしろ人間による環境破壊が原因です。さらに異常気象で多くの地域がここ2年連続山の凶作により、今年の秋も、クマが人里に出てきているのです。
「本州と四国にいるクマがツキノワグマ。植物や魚や昆虫を食べるおとなしくて優しい動物で、本来、奥山に生きているのです。奥山に、食料さえあれば人間と棲み分けできる動物です。奥山が棲めない状況になっているのに、出てきたクマを捕殺し続けていれば絶滅してしまいます」とは森山名誉会長。昨年は過去最高の5685頭が殺処分されました。捕殺に膨大な予算をつけ続けることより、根本解決である野生動物との棲み分けを進めていく必要があるとして、同協会は行政にも働きかけ餌場の確保など、鳥獣被害対策のモデルを作ろうとしています。
■クマが棲める広葉樹林化のモデルづくりを
戦後の国策で広葉樹を伐採しスギやヒノキの植林が全国で進められました。その結果、売れると信じて植えた木材が値下がりし、人工林は手入れをされず、放置されて荒廃しています。同協会は、クマが生息できる奥山の保全・再生をするべきだとして、地域の協力を得て林業に向かない場所の放置人工林を伐採し、野生動物たちの棲める自然林を再生しようとしています。「森をつくるのは、思った以上に時間がかかることでしたが、この20年で苗木が育ち、やっと成果が見えるようになり始めた」そうです。次世代に受け継いでもらう100年先を見据えた活動ですが、日本全国で実施できるように再生のモデルを作っているのです。
そして、このモデルをもとに、昨年導入された森林環境譲与税を使って、水源の森である奥山の自然林再生に取り組んでほしいと、市町村に提案して回っています。この呼びかけに応じて、兵庫県宍粟市や石川県金沢市など広葉樹林再生に使う地域も出てきています。
■ナショナルトラストで国内の原生林を買い上げ永久保全を
森の再生活動をするうちに、今ある豊かな水源の森が破壊されないように守ることも重要だと感じるようになりました。水源を支える森を外国人が買い占めに来ているという問題もあります。日本熊森協会は、市民の力で今、残っている多様性豊かな水源の森を永久保存しておくべきだと、「奥山保全トラスト」を2006年に立ち上げ、、寄付を集めて、クマをはじめとする様々な野生動物たちの生息地である森を買い上げています。現在、全国19箇所2346ヘクタールを保持し、自然のままに永久保全していくことを目的に活動しています。
「祖先が実現させていた『動物と人間が共存する持続可能な文明』の再構築に、みんなの力を合わせましょう。自然保護団体が大きくならないと豊かな自然は守れません、会員になったり、森林や野生動物を守る活動のボランティアをしてみたいという方、活動資金へご協力いただける方があれば、ぜひ、ご連絡ください」と話しています。(武地)
★同協会の活動の発端は、名誉会長の森山まりこさんが教師として教えていた理科の授業で、生徒がもってきた「ツキノワグマ環境破壊に悲鳴」という新聞記事からでした。生徒たちはクマを守ろうと、自分たちで勉強し、「地球を守りたいからクマを守る」と、自ら団体をつくり兵庫県知事や国へ訴えました。その5年後、大学生となった生徒たちが森山さんを会長にして「日本熊森協会」を立ち上げました。
■問い合わせ 日本熊森協会
西宮市分銅町1-4 TEL0798-22-4190 FAX0798-22-4196
個人応援会員1000円~。年4回の会報誌が届きます。詳しくは「日本熊森協会」HPにて。